Thunder and Roses

Thunder and Roses (Signet Historical Romance)

Thunder and Roses (Signet Historical Romance)

★★★★ ヒストリカル・ロマンス>リージェンシー
先月出版された「楽園は嵐の果てに」の原書です。パトニーは原書で読みたい作家のひとりだけど、残念ながらこちらは絶版本。amazon.comから古書を購入しました。本自体は1ドル以下だったので実質送料だけ払ったようなものです(送料高いけど・苦笑)。出品者も五つ星の対応でした。

楽園は嵐の果てに (ラベンダーブックス)舞台は19世紀ウェールズ。アバーディア伯爵であるニコラス・デイビーズは、先代のアバーディア伯爵の一人息子であった父と、ジプシーである母から生まれた。父の死後、ジプシーである母は、金貨百枚で少年のニコラスを彼の祖父である伯爵に売り、ニコラスは伯爵のもとで跡取りとして育てられることに。

十数年後、爵位を引き継いだニコラスの評判は芳しくなかった。村民たちからは“デーモン伯爵”と恐れられ、噂では、ニコラスは祖父の若い後妻を誘惑し、憤った祖父を死に追いやり、自分自身の妻をも死なせたという。祖父の死後、ニコラスはウェールズを離れ、旅立っていた。

4年後、ニコラスがウェールズへ戻ると、牧師の娘であり、村の子供たちの教師を務めるクレアが、村の窮状を訴え、伯爵の援助を求めるために訪れる。ペンレイス村の住民は、炭鉱で生計を支えているが、炭坑は老朽化し、爆破の危機にさらされていた。だが、ニコラスは全く聞く耳を持たない。炭鉱の人々を救うため、伯爵に頼るしか方法がないクレアは、自分の純潔を捨ててもいいと申し出る。しかし、興味が引かれないニコラスは、純潔を奪わない代わりに、ある条件を提示する。それは、敬虔なキリスト教徒であるクレアが、これまでの評判を地に堕としめることを意味していた。ニコラスはクレアが怯えて諦めることを狙っていた。だが、クレアは村を救うため、意を決して、ニコラスの条件をのむが……。ラベンダーブックス公式サイトより

MJPは相変わらず心理描写に長けていて、人間臭さを描くのが上手です。当時の社会背景(ウェールズの炭鉱事情や、それと密接に関係したメソジスト教徒の社会など)もしっかりリサーチして書いたのだろうと感心。でも、この炭鉱の描写はちょっと難しかったです(^^; 
★が一つ減ったのは、ロマンス自体のプロットがあまり好みじゃなかったから。ヒーローとヒロインが最初から惹かれあってるのはわかるのだけど、二人の取引は、ヒロインの言葉を借りればまさにfoolish wagerだと感じたし、ビリヤードのシーン(ヒロインがヒーローを誘惑して突き放そうと試みる場面)もちょっぴり苦手。フィジカルな部分で魅かれあう描写がちょっぴりくどく感じました(これは本当に好みの問題ですね)。でも、後半のロマンスは二人の精神的成長に伴って面白くなっていったし、MJPの描くヒーローはいつも心髄に素晴らしいものをもっているので魅力的です。


この作品、少し前に翻訳本が出版されているので、いくつかレビューを読ませていただきましたが、ヒロインClareの評判があまり良くないですね。 「リスクを承知の上でNicholasの提案を受諾しておいて、後から相手を非難するのはけしからん!」ということなのだと思います。そういう意見も解るような気がするけど、私自身は読んでいるときにはあまり感じなかったんですよね。amazon.comの星4つ以下のレビューにもざっと目を通してみたけれど、ヒロインに批判的な意見はなかったように思います。日本人的価値観なのか、それとも翻訳の影響もあるのか興味深いところ…
翻訳版では「私の人生が犠牲になるのよ!」とClareが叫んだらしいですが、原文では ".....If you want me to play a savior,you will damned well have to pay the price."というNicholasの言葉を受けて、"And the price is my life !"と自暴自棄な発言をしているんですね。 私は「(そして)その代償が私の人生ってわけね!」的なニュアンスで読みましたが、主語を「私の人生」に置き換えてしまうと多少印象が変わってしまうようにも思います。前後の訳文を知らないので何とも言えないですが、このシーン、私はヒロインもヒーローも、身勝手さでは同程度だと思いました(Nicholasが頑として譲らなかったのはClareを手放したくない一心からですからね)。
国内読者とアメリカの読者との感想の相違にちょっと興味をもったのでした。